『国民国家と帝国』

松本彰他編『国民国家と帝国』(山川出版社、2005)
いただきもの。

(1)「国民国家と帝国」という共通関心と、ほぼ全員がかつて東京都立大学大学院で遅塚忠躬先生に師事したという著者の人間関係とでやわらかく結ばれた、9つの個別実証的な論文からなる論文集。というわけで、全体にかかわる感想を述べることはちょっと難しい。ただし、もうすこし「帝国」という概念を明確にし、著者の間で共有しておいてほしかった、という印象が残る。

(2)個々の論文のなかでは、岩井淳「二つのブリテン帝国と連合王国」が面白い。それは、「国民国家と帝国」というテーマに真正面からとりくもうとするスタンスが好ましいからだ。そして、なによりも、対象とされているイギリスという国家の奇妙奇天烈さが、この論文のふくらみにおおきく貢献している。本当に変な国だよなあ、イギリスって。

(3)出色なのは、序章である松本彰「方法としての国民国家と帝国」。松本さんといえば、かの「ドイツ特有の道論争」のサーベイなどで、抜群の整理能力を示したことで知られているが、ここでも、国民国家と帝国の関係を、

  • アイデンティティの重層、複合、競合」という3つの層
  • 「民族、国民、人種」と「臣民、国民、人民」という2つの軸

という枠組みのなかで整理し理解するべきことを提唱し、すっきりとした見取り図を提示している。うーん、さすが。ただし松本さんは「アイデンティティの複合」層と「民族、国民、人種」軸を、「アイデンティティの競合」層と「臣民、国民、人民」軸を、おのおの一対一対応させているが、これはちょっと疑問。むしろ2つの軸と2つの層を交差させて出来る4つの象限で考えるほうが、見取り図としては「より」つかえるものになるような気がする。