『世界経済と企業行動』

萩原伸次郎『世界経済と企業行動』(大月書店、2005)

(1)20世紀アメリカ合衆国の大企業の行動様式と経済政策を、ケインズ派経済学と、アイクナーやミンスキーなどポスト・ケインズ派経済学の分析枠組みを用いて検討している。

(2)なかでも興味深かったのは、アイクナーの企業理論を援用して大企業の価格決定を論じた第1章。アイクナーによると、大企業では、

  • しばしば分散型の工場システムが採用されているが、その場合は、技術係数が固定的だと仮定できるので、限界費用は一定になる
  • 大企業が主導的な産業部門は寡占的になるが、その場合は、プライス・リーダーシップにもとづく管理価格制度が事実上導入され、限界収入は一定になる

という理由から、限界費用曲線と限界収入曲線は平行になってしまう。したがって「両者が交わるところで最適点が求められる」という新古典派的な生産理論は妥当しなくなる。では、大企業はどのようにして価格を設定しているのか。萩原さんは、それを、ゼネラル・モータースの事例などにもとづいて推定している。

(3)個人的には、経済史学は理論経済学とどんな関係をとりむすぶべきか、あるいはとりむすべるか、という関心から、この本を読んだ。両者を接合する際にとりうるアプローチとしては、いくつかのものが考えられる。たとえば、この本の第2章以下でも採用されているが、「経済政策史」という伝統的で正統的なものがある。さらに、経済理論を検証するために歴史的なデータを利用するというものもあるだろう。この場合、経済史学は一種の応用経済学になる。ただし、経済史学は理論経済学に対してなんらかの貢献をしうるか、という観点から考えると、これらアプローチだけではちょっと物足りない。この本の第1章の意義は、理論経済学が答えを出せないことに対して、経済史学は答えを出せることもある、その意味で経済史学は理論経済学に貢献できる、ということを示唆している点にある。