『日英兵器産業史』

奈倉文二他編『日英兵器産業史』(日本経済評論社、2005)
いただきもの。

(1)19世紀後半から第一次世界大戦後までの時期を中心に、「武器移転の経済史」という観点から日英の兵器産業を分析する、長期にわたる共同研究の成果。ここでいう武器移転とは「国家やその他の国際行為体の領域を越えて、武器や武器技術にかかわる所有権・使用権が移転する諸現象全般を指す包括的な概念」(2ページ)を意味している。武器産業の領域は、国家利害にかかわるだけに、政府がアクターとして登場するという特徴を持っている。それゆえ分析は複雑にならざるをえないが、うまくすればそれだけ面白い成果が期待できる分野だろう。

(2)個々の論文は基本的には実証的な研究の産物であり、相互連関は(対象の共通性を除けば)さほど緊密ではない。ただし、それらは、日本とイギリスの史料を双方とも、しかも豊富に利用したという特徴を共有している。国際経済史を研究するにあたっては複数の国の史料を利用することが不可欠だが、これは「言うは易く行うは難い」類の営みに属する。長期間の共同研究という研究形態をとることの、これは一つのメリットだろう。

(3)個々の論文についていうと、出色の出来は第2章「日露戦争前夜の武器取引とマーチャント・バンク」(鈴木俊夫)。日露戦争前夜におけるチリとアルゼンチンの軍艦の対日売却という、見ようによっては瑣末な問題を論じる実証的な論文なのだが、とにかく資料処理の方法に優れている。まず、外務省外交史料館、イギリス公文書館大英図書館、ギルド・ホール・ライブラリー、さらにはアメリカ合衆国公文書館といった、各地の史料を博捜していることに感心する。そして、なによりも、異なる出自の史料を補完的に利用するのではなく、それらをつきあわせることによって「ズレ」を見出し、その意味を考える、という資料処理に対するスタンスには、感嘆せざるをえない。