『福澤諭吉の真実』

平山洋福澤諭吉の真実』(文藝春秋・文春新書、2004)
おすすめ。

(1)学部ゼミで福澤諭吉学問のすすめ』(岩波書店岩波文庫)を読みおわったので、遅ればせながら、昨年の話題作だったこの本を読む。福澤といえば、当初は『学問のすすめ』にみられるような「市民的自由主義者」だったのが、のちには「脱亜論」にみられるような「侵略的絶対主義者」になった、という評価が定着してきた。そして、この変化の原因をどこに求め、いかに評価するべきかをめぐり、論争が続いてきた。ところが、この本によれば、「侵略的絶対主義者」像の根拠とされてきたテクストは、じつは福澤の手になるものではなく、彼は一貫して「市民的自由主義者」だった。

(2)この本の福澤評価の根拠をなしているのは、福澤の膨大なテクストを、初出や、各版の福澤全集について比較し、それを福澤のライフ・ヒストリーに関連付ける、という、地味であるが緻密なテクスト・クリティークである。これは、まさに、実証主義的な歴史研究が自家薬籠中のものとするべき手続きだろう。実証主義的な歴史研究がなすべき、またなしうる仕事は、まだまだ山積している。

(3)それにしても、「西洋近代主義は、論理必然的に植民地主義に転化する」云々といった言説を弄しつつ提示してきた福澤像が、こんなに簡単に(といっても、もちろん膨大な資料分析が必要だったに違いないが)覆されてしまって、それでいいのかポスト・コロニアリスト。もっとも、個人的にはポスト・コロニアリニズムには以前から違和感を禁じえなかったので、べつにいいんだけど。