『歴史とテクスト』

井田進也『歴史とテクスト』(光芒社、2001)

(1)平山洋福澤諭吉の真実』(文藝春秋・文春新書、2004)に紹介されていたので読む。『中江兆民全集』(岩波書店)を編む際にうみだした、無署名テクストの筆者を推定する「無署名論説認定基準」を福澤諭吉その他のテクストに応用し、その有効性を証明する。無署名論説認定基準の核心は、その著者に特有のいいまわしではなく、むしろ、送り仮名や漢字の使い方といった、著者本人ですら意識していない可能性が大きい点に着目し、その特性を極力統計的に確定する点にある。

(2)無署名論説認定基準の紹介を読んで頭に浮かんだのは、とくにヨーロッパ中世史研究の領域で発達してきたパレオグラフィだった。つまり、文学と歴史学は、実証主義的な方法論の次元でけっこう近いところにあるし、たがいに有益な方法論を提供しあえるはずなのだ。この本についても「歴史とテクスト」というタイトルだけをきくと、個人的にはなんとなく(ポスト・モダンぽくて)遠慮したい気になるが…、つまりこれはなるべく遠慮せずに読まなければならないということなのだろう。