『哲学思考トレーニング』

伊勢田哲治『哲学思考トレーニング』(筑摩書房ちくま新書、2005)
いただきもの(増田さん、かたじけない)。
おすすめ。

(1)「クリティカルシンキングの入門書と哲学的懐疑主義の紹介書を兼ねた」(あとがき)という、一粒で二度おいしい一冊。著者は快著『疑似科学と科学の哲学』(名古屋大学出版会、2002)をものしている分析哲学・科学哲学の専門家なので、そんじょそこらの「クリティカルシンキング本」とは一味違う。

(2)「哲学を学ぶと全体的な状況を分析する能力が身につく」(9ページ)という立場から、「クリティカルシンキング」というよりは、反証可能性を重視する「批判的思考」の方法を伝授する。これは、使えるだろう。

(3)ただし、「批判的思考」に対しては、なんでも「批判的思考」したら先に進まないのではないか、という疑問が寄せられることが想定される。これに対して、この本は「批判的思考」を「何を前提として認めれば、どこまでを〈確実〉の側に含めることができるのかを一歩一歩明らかにしていくプロセス」と捉え、それは「決して不毛な作業ではない」(119ページ)と主張する。そして、そのためには「誤った二分法を避けるべきだということ、そして問題の重要度に応じて要求される知識の確実さの度合いを変えるべきだということ」を認めるべきだと述べる。では「要求される確実さの度合いを変えるには具体的にはどうしたらよいのだろうか」(136ページ)。ここで持ち出されるのが「文脈主義」、つまり

同じ人の主張が、判断を下す側の文脈で妥当とも妥当でないとも判断できる、という可能性を認める(137)

立場にもとづく「ほどよい懐疑主義」だ。かくして「反証可能性」と「文脈主義」と「ほどよい懐疑主義」からなる「批判的思考」の意義が提示されることになる。

(4)趣旨からはずれるかもしれないが、議論が極論に走らず、「ほどよい」ものを擁護しようとするスタンスをとっていることが興味深い。一昔前ならば「折衷的」とか「生ぬるい」とかいわれたに違いないこんなスタンスが、最近では色々な領域で目に付く。とてもよいことだと、ぼくは思う。