『ケアの社会倫理学』

川本隆史編『ケアの社会倫理学』(有斐閣有斐閣選書、2005)
おすすめ。

(1)「ケア」という観点から見た生命倫理の入門書。医療、介護、福祉の諸領域においてケアがはらむ問題を、研究者と実践者が縦横に(つまりは、論文によってかなりバラバラに)論じる。ケアと正義、パターナリズムと自己決定、市場化と行政、あるいは「天職」とバーンアウトなど、どちらもそれなりに正しい二項対立をどう考えればよいかについて、いろいろと考えさせられる。

(2)ちなみに「序論」(川本隆史)では、これら二項対立をどう処理するべきかという問題について、「バランス」とか「二重の戦略」とか「〈間〉をきわどく匍匐前進していく」こととかが強調されている(39-40頁)。でも、これって「どっちも大切です」という以上のものではないんじゃないか、という気がする。なーんていいつつ、でも、それしかないんだろうなあ、という気もする。具体的な問題だけに、答えは単純ではないということなんだろう。この本は決定的な答えを提示しているわけではないが、いろいろと考えさせられるという点で、優れた問題提起の書だと思う。

(3)読んで一番面白かったのは、第5章「感情労働としてのケア」(武井真子)。「天職」たる看護師のバーンアウト症候群を論じるこの文章は、ぼくの目から見ると、一種異様な迫力に満ちている。それは、ぼくら教師も「天職」ならぬ「聖職」であり、それゆえバーンアウト症候群は他人事ではないからだ…、と胸を張って(?)言えないところが情けない、教師生活11年目の秋。