『歴史を考えなおす』

キース・ジェンキンズ『歴史を考えなおす』(岡本充弘訳、法政大学出版局、2005、原著1991)
いただきもの。

(1)イギリスのポスト近代主義歴史学者による、ポスト近代主義歴史学の入門書。ソシュール、バルト、フーコーデリダ、ヘイドン・ホワイトといったポスト近代主義のビッグネームに依拠しつつ、大略

  • 過去にアクセスするには言語を介する必要がある
  • 言語は自律的な存在である
  • したがって「真実の歴史」なんてものはない
  • したがって複数の歴史が並存する
  • ぼくらはそこから自由に選択できる
  • これは人間の解放の第一歩である…

といった論を展開する。でも、複数の歴史が存在しさえすれば人間が解放されるというんだったら、コソヴォの悲劇はなかったんじゃないか、という気もするが…。それは措いておき、たぶん、いわゆる「左翼的な」ポスト近代主義の模範的な理解だといってよいだろう(ポスト近代主義があまりよくわかっていないので「たぶん」)。

(2)でも、パラダイム論(クーン)、生成文法理論(チョムスキー)、そして脳科学認知科学といった諸領域における近年のファインディングを思い出してみよう。そのとたん、そろそろポスト近代主義から「ポスト・ポスト近代主義」に移行してもいいんじゃないの?、という気がしてくるのは独りぼくだけか。でも、ポスト・ポスト近代主義っていうのは、しっくりこない言葉ではある。

(3)チェックしておくべきだと思わされたのは

「真実」は(たとえば演繹的なロジックのような)分析的なコンテクスト自体には適用されない。それゆえ、幅広い議論(解釈)に関与している歴史家は、そうした幅広い議論・解釈を真実として言及することはできない。実際に、「真実の解釈」ということを語ることは、言葉自体のなかに矛盾がある(141ページ)

というところ。いずれ考えてみる必要がありそうだ。

(4)もうひとつ、訳者解題にあるとおり、たしかに日本の歴史学界はポスト近代主義歴史学の「輸入」を重視してこなかった。その理由について知識社会学的に考えてみるのは、けっこう面白いかもしれない。