『「驕る日本」と闘った男』

清水美和『「驕る日本」と闘った男』(講談社、2005)

(1)なんてったって朝河貫一である。朝河といえば、日本人ではじめて、それもいまから一世紀近く前に、「かの」エール大学教授(法制史)になった大学人であり、「かの」アナール学派創始者マルク・ブロックとリュシアン・フェーヴルも執筆を依頼したいと考えていたほどの歴史学者である(二宮宏之『マルク・ブロックを読む』岩波書店、2005、を参照のこと)。かくも「かの」がとびかうプロフィールの持ち主というのは、そうそういるもんじゃない。その朝河の伝記であるこの本では、とくに、日露戦争終結と講和をめざして奔走した若き日の朝河の姿が描かれる。

(2)異国にあって日本の勝利を願い、しかし植民地主義に走りだした日本を苦々しく思うという、アンビバレントな感情をもたざるをえない知識人の苦悩が描きだされていて、興味深い。

(3)それにしても、日露戦争といえばポーツマス講和条約ポーツマス講和条約といえば日比谷焼き討ち事件。これを大衆社会状況と見るか、民主主義のアンビバレンスの表れとみるか、いずれにせよ過去はなかなか過ぎ去ろうとしないものである。