『慶安御触書成立試論』

山本英二『慶安御触書成立試論』(日本エディタースクール出版部、1999)
おすすめ。

(1)以前どこかのブログで紹介されてたのを見て面白そうだと思って購入したら、これがあたり。江戸時代の農民生活を幕府が規制した例としてつねに引き合いにだされる「慶安御触書」。しかしその実物はいまだに発見されておらず、その存否そのものについて、いまでも論争が続いている。この事態から出発し、「御触書」の存在にかかわる諸問題を探る。

(2)そのうえで、この本は

  • 17世紀半ば、東日本の一部で、農書「百姓身持之事」が広まった
  • 1697年、甲府徳川藩が、それをもとして藩法「百姓身持之覚書」を制定した
  • 1830年、美濃岩村藩が、それを「慶安二年御触書」と称して印刷し、藩内に普及させた
  • その仕掛け人は、同藩出身の幕府学問所総裁・林述斎だった
  • これが各種資料集に転載され、今日に至る

ことを明らかにする。

(3)資料の制約もあって議論の一部に推論に頼らざるをえないところがあるが、それはしかたないことだろうし、推論としては説得的だし、なによりも議論が面白くてスリリング。唯一残念なのは、岩村藩のウソがばれなかった理由が論じられていないことだろうか。