『経済学の生誕』

内田義彦『新版・経済学の生誕』(未来社、1994、初版1953)

(1)連載予定「名著再訪・20世紀日本の経済学編」3回目、6月は内田義彦である。本当に久しぶりに読み、懐かしや。内田によれば、第2次世界大戦直後までの日本のスミス研究では、理論経済学的なアプローチと社会思想史学的なアプローチという二つのアプローチが並存し、しばしば無意識に混同して利用されていた。内田はこの現状を批判し、両者の関係をただしく再構築するべきことを主張する。そして、スミスが批判した当時のイギリス政府の政策体系を再検討し、さらに彼の経済理論をマルクスリカードのものとつきあわせることによって、みずから二つのアプローチの関係を再構築しようと試みる。複数の経済理論をつきあわせるという作業は、じつは、まさに経済学史学の営みそのものである。経済学史学には、理論経済学と社会思想史学を接合するという独自の意義と役割と課題があるわけだ。内田自身が明言しているわけではないが、その意味で、本書は経済学史学の独立宣言である。そう、社会思想史学と理論経済学の狭間で肩身の狭い思いをし、さらにはしばしばアイデンティティ危機に襲われてきた、この学問領域の。

(2)本書を手に取った読者は、「ぼく」という主語を用い、きわめてインティメートな口調で綴られるという、その独特の語り口に驚かされ、さらに、おそらくは魅了されることだろう。内田が言葉を用いた活動はいかになされるべきかという問題にこだわりつづけたことをおもいおこせばわかるとおり、この語り口は単に奇をてらって採用されたものではない。本書は、社会科学の研究成果をいかに社会に伝えるかをめぐる内田の思索の産物でもある。