『経済原論』

宇野弘蔵『経済原論』(岩波書店・岩波全書、1964)

(1)連載予定「名著再訪・20世紀日本の経済学編」第4回めの準備読書。かつて学部学生時代に教科書として読み、もろくも沈没した「宇野原論」である。土曜日に学振人社プロがあったため、東京に往復する新幹線の車中で読む。ちなみに研究会終了後は学士会館分館で新年会となったのだが、向かいの部屋で会議をなさっていた樋口陽一さんに本当に久しぶりにお会いするわ、驚くべき人事の話を小耳にはさむわ、なんというか「充実した」飲み会となった。

(2)本書のなかでもっとも興味深いのは、巻末に付された「本書で採りあげた『資本論』における問題点」と題する一ページだろう。宇野はマルクス経済学者であるが、マルクスの所説を一言一句金科玉条のごとくくりかえして事足たれりとする訓詁学者ではなかった。マルクスとて無謬ではありえない以上、場合によってはマルクスの所説を修正しなければならない。マルクスの所説に拠りながら、しかし必要とあらば批判と修正を厭わないという、きわめて微妙なスタンス。これが、本書の魅力と、そしておそらくは難解さの源をなしている。

(3)マルクスは、資本主義から社会主義への移行の必然性を証明するべく、資本主義経済システムを分析した。これに対して、宇野の経済原論は、きわめて安定した資本主義経済システムの姿を描きだす。そこに社会主義への移行の契機を見出すことはできない。これにより、マルクス経済学を純粋な科学たらしめることが目されたのである。ただし、宇野が社会主義への移行に期待を寄せなかったかといえば、そうではない。彼は、社会主義への移行は人知を超えた必然性のもたらすものではなく、人間の行動・運動の産物でしかありえないと説く。経済学の科学化をクールに推進した経済学者・宇野は、それと同時に、人間の主体性に希望を託すヒューマニストだった。