『エコノミーとエコロジー』

玉野井芳郎『エコノミーとエコロジー』(みすず書房、1978)

(1)『経済セミナー』連載予定「名著探訪・20世紀日本の経済学編」10月号は 玉野井芳郎。宇野弘蔵の高弟にして、いまではイリッチやポランニーの紹介者として知られている、一種異端の経済学者である。その印象は、この本を読んで、ますます強まった。

(2)玉野井は、生産と消費を「人間と自然とのあいだの物質代謝の過程」と規定するマルクスに示唆されつつ、経済システムと環境システム(自然)という相互関連する2つのシステムを総体として分析しうる「広義の経済学」を構想するべきことを主張する。公害をはじめとする環境問題は環境システムにかかわるものである以上、広義の経済学を用いることによって、はじめて環境問題を解決する道が拓けるだろう。で、彼は、労働力や土地という環境システムの産物が経済システムにとりこまれるプロセスである商品化のあり方に着目する宇野弘蔵やポランニーの所説を再検討する。あるいは、2つのシステムはエネルギーとエントロピーを交換しあっていると考え、ホメオスタシス、フィードバック、サイバネティクスといった、システム理論が提示してきた様々な概念を用いて、この交換プロセスを叙述しようとする。こういった作業を通じて、玉野井は2つのシステムの相互連関を捉えようとした。

(3)この本を読むものは、そこでカバーされる対象のあまりの広さに、一種のめまいを感じることだろう。なにしろ、人名を見るだけでも、スミス、リスト、ドイツ歴史学派、マルクスヴェーバーケインズ、ハロッド、ポランニーという経済学者たち、さらにはブルンナーやヒンツェなど国制史学者や、ベルタランフィやヘッケルなど生物学者までが登場するのだから。それでは、これは玉野井の衒学趣味の産物なのだろうか。もちろん、そうではない。これは、広義の経済学を構想しようとした彼の苦闘の跡なのだ。ただし、この目的を果たさずして、玉野井は早世する。その意味で、本書は後世に開かれた未完の書である。