『脱アイデンティティ』

上野千鶴子編『脱アイデンティティ』(勁草書房、2005)

(1)アイデンティティの時代は終わった、これからは脱アイデンティティの時代だ!!、と宣言する書。キーワードは「言語が主体を通じて語る」(27頁)あたりだろうか。言語が生きているとは知らなかった…自らの不覚を恥じるべきか。たしかに「もりは生きている」と題する本もある(わかる人しかわからない)のだから、言語が生きていると主張する人がいても不思議ではないのだろう。

(2)どこかで見たような気がする論説が続くなかで、第4章・斉藤環「乖離の時代にアイデンティティを擁護するために」が光っている。他の論説がアプリオリに前提にしている「心理学に大幅に依拠した証明」という参照枠組が揺らぎ、他のものにとってかわられつつあることを、ひとり斉藤だけは鋭敏に見てとっている。そして、このトレンドに抗したいが、抗することは出来そうもない、ということも。さすがは心理学(精神分析)の専門家、見事である。