『貧困と共和国』

田中拓道『貧困と共和国』(人文書院、2006)
いただきもの。
おすすめ(専門書だけど)。

(1)フランス史研究の領域の細かい話になるが、フランス革命二百周年のころ、ハーバーマス「公共空間」論の影響下に、「政治文化論」とでも呼ぶべきトレンドが構築され、発展したことがある。そこで問題になったのは、いわば「政治的なるもの」をいかに捉えるかということだった。その後、今度は、フーコーの所説をうけつぎながら、「社会問題思想史」とでも呼ぶべき研究が展開されるようになった。そこで問題になったのは、福祉国家の成立をもたらす「社会的なるもの」の発見をいかに捉えるかということだった。この本は、社会問題思想史研究のながれに棹差す、おそらくは日本ではじめてのまとまった研究である。著書の田中さんは、このトレンドをリードしてきた政治思想史学者ピエール・ロザンヴァロンの弟子にあたる。

P.S.ロザンヴァロンの業績については、『ユートピア資本主義』(国文社)が翻訳されているほか、『新しい社会問題』の翻訳が進んでいるという噂。

(2)革命後のフランスでは、社会は「モラル」を構築する独自なアクターにして空間とみなされることになった。この「社会的なるもの」をいかに把握するか、そして政治との関係をいかに構築するべきかをめぐり、19世紀のフランスでは、政治経済学、社会経済学、社会共和主義、そして連帯主義という、大別して4つの思想が登場し、対立しあった。田中さんは、このプロセスのなかに、フランスにおける福祉国家の思想的基盤を探ってゆく。叙述はすっきりしていて、見通しも良い。

(3)ただし、最後まで「社会的なるもの」のイメージがつかみきれないきらいがある。それはモラル構築の場なのか、モラル構築のアクターなのか、諸階層がおりなす階層関係なのか、福祉政策の対象なのか、それとも…もっともこれは、読み手たるぼくの問題なんだろうけど。