『投票方法と個人主義』

田村理『投票方法と個人主義』(創文社、2006)
いただきもの。

(1)フランス革命期における投票方法の変遷の歴史をたどり、「選挙」という営みの意義を探る書。著者の田村さんは憲法学者であるが、まだ不惑前だというのに、これでもう2冊目のモノグラフ…あせるわたし。

(2)投票をめぐる対立軸として「パブリックな行為か、プライベートな行為か」、「集団的な行為か、個人的な行為か」、そして「権利か、公務か」をたて、その参照枠のなかで、喝采にもとづく投票、発声投票、筆記投票といった、様々な投票方法の性格を考えてゆく。なんといっても興味深いのは、発声投票は「パブリックな行為」にして「個人的な行為」であると定義し、そこから投票、さらには近代市民社会を担う個人のあり方を考えてゆくところだろう。

(3)疑問をひとつ。この本によれば、1795年憲法は教育によって市民を識字化することを目指したが、識字化の目的は筆記投票を可能にすることであり、したがってそこで考えられている市民は、自己の選好を公表できるほど強くはない「弱い個人」だった。ところが、その一方で、田村さんはこの憲法は「真に自立した個人=市民を創出しようという理想を掲げた」(186頁)と評価する。「弱くて、真に自立した個人」というのは、一体どんな存在なんだろうか。? もうひとつ、フランス選挙の歴史を論じる際には、政治思想史学者ピエール・ロザンヴァロンの一連の業績を外すことはできないはずだ(むかし読んだので、内容をよく覚えていないのだが)。ところが、この本にはロザンヴァロンの名前が(引用内の一箇所を除いて)出てこない。なぜだろうか?