A Crooked Line

Geoff Eley, A Crooked Line (Ann Arbor : University of Michigan Press, 2005)

(1)件の「ドイツ特有の道論争」で名をはせたドイツ現代史学者ジョフ・イリーの自伝。大学者が自らの学究人生をふりかえった渋い一冊だろうと思って読みはじめたら…なんとイリーは68年世代。ということは、まだ還暦前じゃないか(職場の写真を見よ!!)。おーい。

(2)イギリス・マルクス主義「社会史派」(ホブズボーム、トムソン、リューデ、ヒルなど)の直接的な影響のもとに学問形成し、ドイツ現代史を研究するなかでドイツ「社会構造史学派」(コンツェ、ヴェーラー、コッカなど)と切磋琢磨し、そしてアメリカ合衆国に職を得ることによって「新しい文化史学派」(スコット、シーウェルなど)の誕生を目撃した一人の歴史学者が、自伝という形式を取りながら、過去半世紀の歴史学のトレンドを解説し、21世紀の歴史学の行方を示唆する、とても欲張りな一冊。基本的なストーリーは「社会史から新しい文化史へ、そして社会の総体的な歴史へ」といった感じだが、さすが「当事者」だけあって、よく目配りの利いたインフォマティヴな本だ(ぼくとしては、彼がドイツ社会構造史学派を批判して「ドイツ特有の道論争」をひきおこした理由がわかって嬉しかった)。だれか訳さないだろうか。

(3)社会史と新しい文化史の双方のインパクトを受けた歴史学者として、イリーは両者を両方ともとりいれるべきことを説く。それが一番生産的であり、どちらかにこだわるのはつまらない、というのだ。この、いかにも折衷主義的で経験主義的で、つまりはイギリス的なスタンスを、ぼくらはどう評価するべきだろうか。

(3)なお、この本で一番印象的なのは、歴史研究は「差異difference」をうみだすことに貢献できるのであり、それゆえ「レリバントrelevant」でなければならないし、またレリバントでありうる、というイリーの信念。ひるがえって日本の歴史学界の現状を考えると…先日「今秋創刊」A新書の編集者さんとお話ししたとき(正確には「ぼくは手一杯ですが、こんな人がいまっせ」と営業したとき)面白い本が書けそうな歴史学者はどれくらいいるかという話題になり、頭を抱えたことをおもいだした。うーむ。