『言語の思想』

田中克彦『言語の思想』(岩波書店岩波現代文庫、2003、初版1975)

(1)学部ゼミ今年度夏学期のテーマは「社会言語学」。たしか経済学部のゼミだったはずなのだが、学生諸君の多数決で決まったことだからしかたないし、去年度冬学期のテーマは「進化生物学」だったから一歩前進(なにに向かって?)といえないこともない……で、社会言語学といえば欠かせないのは田中克彦。まず『ことばと国家』(岩波書店岩波新書、1981)から始めるというのはほとんどお約束、来週議論する2冊目がこの本である。

(2)『ことばと国家』では「国家語vs.母語」という単純な二項対立で議論し、そのうえで後者を盲目的に支持しているようにみえる(ので、先週のゼミでも評判が悪かった)田中さんだが、この本を読むと、そんなに単純な論立てではないことがわかる。つまり、この本の主要テーマのひとつである社会主義国における言語政策の分析の背景には「ナチズムに接近する言語共同体的な母語主義vs.社会主義と親和的な言語人工物主義」とでも呼ぶべき対立軸が存在する。そして、田中さんは、どちらかといえば後者を肯定的に評価する。こと「母語」に対しては、彼はアンビバレントな立場に立っているわけだ……うーむ、なかなか面白い議論が出来そうである。