『経済発展論入門』

秋山裕『経済発展論入門』(東洋経済新報社、1999)

(1)経済成長論のお勉強の続き。経済成長論における諸モデル、農工2部門モデルを利用した工業化理論、産業連関表を利用した産業構造分析などを説明する。

(2)諸モデルの比較についてずいぶん詳しく解説してくれるので、わかりやすくて有益。たとえば

スミスの経済発展政策は工業化であった。これは、農業は収穫逓減(すべての生産要素の投入をα倍しても、生産はα倍に達しない)という性格を持ち、工業は収穫逓増(すべての生産要素の投入をα倍すると、生産はα倍以上になる)という性質を持っていることに起因している……。スミスが経済発展に関する考えをまとめていた時は産業革命が起きたときであったが、それが将来にわたっての技術進歩につながるとは確信することはできなかった。すなわち、将来についてはいずれ分業が頭打ちになり、定常状態(経済発展の水準が上がらない状態)となる時が来ると考えていた。後の新古典派は一人当たりの資本ストックの水準が増えない状態を、黄金時代と呼んでいるのと対照的である。これは、新古典派がある速度を持って技術進歩が進むことを確信していたためである。技術進歩があれば、一人当たりの資本設備が増えなくても経済が発展を続けるのである。スミスの自由貿易の推進による市場拡大という主張は、技術進歩に確信を持っていなかったことに起因するこのような将来に対する悲観的な考え方に基づいていると考えられる。
リカードは、イギリスの産業革命後に経済に関する考えをまとめている。このため、技術進歩が続くということを実感していた。さらに、その技術進歩の速度に農業と工業で違いがあることを指摘している。農業は技術進歩が遅く、また、土地の制約がある。しかし、工業は技術進歩が速い。このため、工業化が必要であると感じていた。スミスが分業による効率化の観点から工業化を主張したのとは性質が異なる(55-6頁)

という指摘は、経済学史に関する叙述としても秀逸。
また、新古典派経済成長理論とハロッド・ドーマー・モデルの違いについても

新古典派成長理論と、ハロッド・ドーマー・モデルの違いは……生産関数が固定的投入係数を持つか、可変的投入係数を持つかの違いのみである。その他の仮定は全て同じである。しかしながら、この生産関数に関する仮定の違いによって、経済の長期的変化の説明が大きく異なってくる(78頁)

と要約してくれていて、ありがたい。秋山さんの視野の広さを感じさせる。