『昭和史論争を問う』

大門正克編『昭和史論争を問う』(日本経済評論社、2006)
いただきもの。
おすすめ。

(1)戦後日本の歴史学界でもっとも重要な論争の一つ「昭和史論争」について、論争の分析、論争にかかわる主要論文の採録、論争当事者のインタビュー、論争に関連する事項の詳細な年表からなる、共同研究の産物。共同研究といっても、編者・大門さんの大学院セミナーから生まれたという生い立ちをもつ。うーむ、研究と教育が幸福に結合しているのを見て、とにかく「うらやましい」のひとこと。

(2)昭和史論争は、戦後史学史を論じる際には必ずといってよいほどふれられるテーマではある。ただし、この本は

過去の論争が現在に意味をもつためには、時代のひろい文脈のなかで検討する必要がある。そうしたときに過去の論争は、はじめて現在に再生することができるであろう……。一九五〇年代論としての昭和史論争、これが昭和史論争から課題を継承するための本書の前提である(33-4頁)

というスタンスをとり、これがこの本のオリジナリティをなしている。たとえば、論争当事者である亀井勝一郎遠山茂樹の「論争前」や「論争後」を視野に入れると、論争だけに視線を集中していたのではわからない、論争の含意がうかびあがってくるわけだ……お見事。

(3)この本では、論争当事者の所説について、おもに実践的スタンスと歴史理論に着目して論じている。ただし、もうひとつ、歴史学方法論という大切なポイントがある。この点を考慮に入れていれば、たとえば亀井の所説は……「追体験」を重視する点はディルタイに似ているのではないかとか、そこに新カント派やドイツ歴史学派の影響はないのかとかいった問題を検討することによって……もっと陰影に富んだものとして描きだしえたかもしれない。