『現代史の課題』

亀井勝一郎『現代史の課題』(岩波書店岩波現代文庫、2006、初版1957)

(1)昭和史論争の火付け役・亀井勝一郎の、論争に関する論文がとりまとめられて出来上がった書。亀井は、遠山茂樹他『昭和史』(岩波書店岩波新書、1955)に対して

読み終わってまずふしぎに思ったことは、この歴史には人間がいないということである。「国民」という人間不在の歴史である。個々の人間の名前は出てくる。敗戦に導いた元兇とか階級闘争の戦士の名は出てくる。ところがこうした歴史に必ずあらわれねばならない筈の「国民」が不在だ(12頁)

という評価を与える。この評価を、ぼくらはどう理解するべきだろうか。

ちなみに、この岩波現代文庫版の解説者・松本健一は、亀井の所説を

亀井はここで、歴史を動かしているのは結局のところ人間ではないか、その人間=国民があの「無謀」ともいえる戦いの歴史を支えていたのではないか、と問うているのだ。翻っていうと、歴史は「科学」であると主張する歴史学者たちがいうような歴史的法則、つまり唯物史観に従って動いているのであろうか、と亀井は疑いを発しているのである。『昭和史』の執筆者たちは、人間=国民が歴史を動かし支えたことを描こうとせず、その歴史的法則といわれるものを昭和史にあてはめただけなのではないか、と(224頁)

と要約する。これは、亀井がたてた「敗戦に導いた元兇……階級闘争の戦士……国民」という三項対立を見てとらない/見てとれない点で、一面的な解釈といわざるをえない。こういった一面性が、亀井の所説も、遠山たちの所説も、そして昭和史論争の意義も、すべて縮減してきたのである。