『信頼と自由』

荒井一博『信頼と自由』(勁草書房、2006)

(1)新古典派経済学者の手になる新古典派経済学批判の書。まず批判の根拠については、乱暴に要約すると

  • 新古典派経済学によれば、効用最大化行動・完全情報・完全競争といった諸条件を仮定すれば、自由放任すれば最適資源配分が実現される
  • でも、ゲーム理論の「囚人のジレンマ」モデルや複数均衡モデルを考えればわかるとおり、市場では、そうならないこともある
  • 企業の内部をみると、そこでは自由放任は最適資源配分を実現しない
  • いずれにせよ、最適資源配分を実現するには「Bの表明したことや(表明しない場合は)社会的に倫理的であると考えられることをBが行うとAが信じる確率」と定義される「信頼」(28頁)を導入する必要がある

という感じだろうか。これはまったくその通りだと思う「経済学素人」のわたしである。

(2)それでは、いかに信頼を導入すればよいか。通常の手続きでいえば、おそらくは

  • 効用最大化行動と信頼を両立させるような制度を構築する
  • その制度を頑健なものにするにはどうすればよいかを考える

ということになるだろう。

ところが、本書の提言は

  • 「組織全体から見て好ましいと考えられる行動をとる精神」や「社会全体から見て好ましいと考えられる行動をとる精神」が必要である(214頁)
  • そのためには「自己の存在を表現するように生きるべきである」(279頁)

という方向へと進んでゆく。うーむ、これってどれくらい有効なんだろうか。