『コルナイ・ヤーノシュ自伝』

コルナイ・ヤーノシュ『コルナイ・ヤーノシュ自伝』(盛田常夫訳、日本評論社、2006、原著2005)
いただきもの(斎藤さん、サンクス)。

(1)ベルリンの壁崩壊以降の《社会主義から資本主義への移行》プロセスに大きな影響を与えたハンガリーの経済学者コルナイ・ヤーノシュの自伝。厨先生こと稲葉振一郎くん絶賛の一冊。

(2)個人的な興味関心からいうと

いったいどうやったら線形計画法を国民経済計画のレベルに応用できるのだろうか……。ひとつ……の方法がひらめいた。それはサムエルソンの理論から見つけたものだ。市場のどの実際的瞬間においても、種々の取引ごとに、ひとつの生産物について多種の価格が存在するが、市場が最適均衡状態になれば、価格の平準化が達成される。そして、ひとつの生産物に、、ただひとつの価格が存在する。

……そこから、ひとつのモデルの概略を考案した。そのモデルでは、中央計画当局が数量(投入割当と産出義務)を各部門に割り当てる。各部門は中央から与えられた指標を満足させるような最良の計画を、個別部門の線形計画の枠組みで作成し、その投入財と産出財の「影の価格」を中央当局に伝える。これはある種の独特な経済性の報告である。価格均衡の原理にもとづいて、中央当局はふたたび割当を実行する(限界産出が低い部門から資源を引き上げ、それを高い部門に割り当てる)。同じように、産出義務量についても調整する。この分配データにもとづいて、各経済部門は再度、計算を行う。最良の分配に到達するまで、この手続きが繰り返される。

こうした思考は出来上がったが、それを正確に記述することができなかった……。素晴らしいアイディアが生まれた。「この問題をゲーム理論のモデルで構成する」というアイディアで、これを考案した1963年はまだゲーム理論が大きなルネサンスを迎えるはるか前のことであった。プレーヤーの一人が中央計画当局で、もう一人が経済部門の総体である。この概念構成に従えば、厳密に証明できる数学定理「上に描いた手続きは、最適解へ限りなく接近(収斂)する」が存在する。

こうして「二水準計画化」と題された研究が出来上がった……。ランゲ&マランヴォーの世界では、中央機関が価格を確定して、企業はその価格に適応しながら生産量と投入量を決め、中央機関に報告する。中央機関はこの報告にもとづき、どこに超過需要あるいは超過供給があるかを確定することができる。ここから、中央機関はどの企業でどのような方向へ中央決定価格を変更するかを決める。これはまさに「市場社会主義」の理想化された図式である。我々のモデルでは情報フローがちょうど逆になっている。上から下へは価格情報が流れるのではなく、数量情報(資源割当と生産量義務)が流れる。そして、下から上へは分配された資源と産出課題の経済性についての報告が流れる。これはまさに「中央集権的計画化」の理想化された図式である。

さらに、この対比を続けることができる。コルナイ&リプターク・モデルは「完全計画化」モデルである。この対極にあるのが、「完全市場」のワルラス一般均衡モデルである。「完全集権化が完全に機能する」システムを理論的に構想することができることを前者のモデルが証明したとすれば、後者のモデルは「完全分権化が完全に機能する」システムを理論的に構想できるという正反対のことを証明している(144-7頁)

という「二水準計画化」論の説明が圧巻。経済学史学にとって(そして、たぶん比較経済体制論にとっても)きわめて重要なことが述べられている、ような気がする。