『「悪しき」文化について』

足立信彦『「悪しき」文化について』(東京大学出版会、2006)

(1)ヨーロッパ普遍主義のイデオロギー性を認め、他方で文化相対主義の陥穽にも注意を払ったうえで、「他者」という観点からヨーロッパ文化を読みとこうとする試み。そこには、たとえば

文化的相対性の認識が寛容の論理として機能するためには、普遍的諸価値の領域との棲み分け、共存が必要とされる……。そのような普遍主義的立場からの視線があればこそ、相対化された諸々の文化的価値規範が、弱肉強食のジャングルではなく、咲き乱れる多様性の花々として現れてくる。しかし、普遍主義的立場をとる可能性が失われていくにつれ、文化的相対性の認識は、自文化への宿命的な帰属と、その中に囚われてあることへの妥協もしくは自足、一種のニヒリズムへとの転化していく……。われわれはすでに、深く相対主義を刻み込まれた時代に生きている。言語的、文化的、人類学的、認識論的、科学論的相対主義の浸透によって、われわれの眼には、あらゆる普遍主義的主張が、暴力的で疑わしいものとして映る(183-4頁)

といったような、ヨーロッパ普遍主義と文化相対主義の評価をめぐる自己矛盾がみちあふれている。ここには、ヨーロッパ普遍主義と文化相対主義のすきまを探すという課題がひとつのアポリアであることが明確に表現されている。