『現代イギリスの教育行政改革』

清田夏代『現代イギリスの教育行政改革』(勁草書房、2005)

(1)地味〜なタイトルだが、

  • 日本の教育改革構想は、どれもイギリスの経験をヒントにしている
  • イギリスの教育改革には、サッチャー改革とブレア改革がある
  • 両者は類似点ばかりが強調されているが、相違点もあるはずだ
  • 両者の相違点を見出し、分析するには、近年再検討されつつあるデュルケムの理論が有効である

という仮説から、

  • 近年におけるデュルケム(とくに教育)理論の読直しをサーベイし、
  • そこから得られた《国家と社会――具体的には各種任意中間団体――のチェック&バランス》という視点から、この視点が存在するか否かについて、イギリスにおける2つの改革を実証的に対比し、
  • さらに、近年の多文化状況に対応するべく《国家と社会のチェック&バランス》という視点にもとづく学校選択という制度構想のポテンシャルを測定する

という作業につきすすむ、なかなか野心的な一冊。こういうかまえの大きさは、いいなあ。

(2)この本が依拠しているデュルケム理論は、個人の自由を擁護するためには、ものごとを国家に頼るだけでもなく、社会に委ねるだけでもなく、両者の《チェック&バランス》が必要である、と主張している。これを教育改革を論じるときに利用できる分析枠組として再構成すると

  • 枠組I:教育を規制する方策は、国家か、社会(各種任意中間団体)か、不在(あるいは市場)か(枠組I)

というものになるだろう。ただし、利用しうる分析枠組は、これだけではない。もうひとつ、

  • 枠組II:教育に対する異議申立の方策は、退出か、告発か(枠組II)

というものも、きわめて重要である。

そして、問題は、2つの分析枠組の関係をいかに理解するか、という点にある。おそらく、両者は議論の次元が異なっている。ところが、残念なことに、この本には、この点に関する関心が十分でない。たとえば、著者の清田さんは、黒崎勲さんの所説にのっとり、《チェック&バランス》型の学校選択制度と《市場原理》型の学校選択制度を対置し、前者の優位を説く。しかし、おそらく両者は異なった次元で構想されている。つまり、前者は枠組Iで論じられているのに対し、後者は枠組IIのなかで構想されている……といいつつ、これは単なる思いつきだし、ぼくにこれ以上のアイディアがあるわけではないのだが。