「イスラーム創造説」の時代、始まる

(1)わが国では「ニセ科学」とか「インテリジェント・デザイン」とかいった話題が一部で盛上がっているようだが、そんなのは古いっ、古めかしい、古くさい、古すぎる!! 科学の故地(?)ヨーロッパを見よ、かの地ではすでに泣く子も黙るイスラーム創造説」の時代が始まっているのだ。小田中がル・マンのホテルで朝食を食べながら読み、おもわずカフェオレを口から噴きだしそうになった『ル・フィガロ』紙渾身の記事を粗訳で紹介したい。

イスラーム創造説のフランス侵攻」(『ル・フィガロ』2007年2月2日)


ここ一週間、フランスのほとんどの中高そして大学に、『創造のアトラス』と題する豪華本が届けられている。この本は、ハルン・ヤハヤ(Harun Yahya、本名アドナン・オクタルAdnan Oktar)なるトルコ人を著者とし、じつに数万部がトルコやドイツから直接郵送されてきているが、大量の図版をもちい、770ページにわたってダーウィン主義と進化理論に反駁している。つまり「進化論者のペテン、彼らのあやまたれる主張」、そしてとりわけ「ダーウィン主義と、ファシズム共産主義といった血みどろのイデオロギーの、秘めやかな関係」を告発することをめざしているのである。
著者は、チャールズ・ダーウィン(1809〜1882)の理論は「テロリズムの真の源泉」であると述べ、たとえば、9・11攻撃の写真には「世界中にテロをまきちらしているのは、本当はダーウィン主義者である。ダーウィン主義は、紛争を肯定し、したがって助長する唯一の哲学である」なる唖然とするような説明文を付している。
このニュースを知った文部大臣ジル・ド・ロビアンの大臣官房は、各地の大学区長に対して、同書は「大臣が定めた教育計画の内容にそぐわないので、各種学校の図書館に入り込まないよう対応する」ことをひそかに求めたとのことである。また、同省国民教育総視学局は、パリ大学ジュッシュー校の生物学者エルヴェ・ル・ギアデルに対して『創造のアトラス』を詳細に分析するよう求めた。氏は『ル・フィガロ』に対して「これは新種の創造説ですね。それも、北アメリカで猛威をふるっているキリスト教系のものよりも油断なりません」というコメントを寄せた。
実際のところは、ハルン・ヤハヤは、世界とそこに生きるものどもは6千年前に7日間で創造された(『創世記』)と主張しているわけではない。イスラーム教徒である著者は、そうではなく、地球は(実際の年齢たる)46億歳であることを認める。そのうえで、ここ2世紀来世界各地で幾多の化石が発見されていることを根拠に、「種は一切変化していない」と断言するのだ。
著者は、数千万年前の魚、ハイエナ、蟻、ヒトデ、さらには木の葉といったものの写真を並べ、今日わたしたちが目にしているそれらの子孫と比較する……率直にいえば、かなり混沌としたやり方でではあるが。そして、両者が似ていることを示し、したがって「生物は進化したのではなく、創造された」ことを証そうとする。
エルヴェ・ル・ギアデルは「この方法は、知識の少ない人びとに対しては絶対有効だと思います。たしかにこういった生物は解剖学的にも遺伝学的にもかなり違うし、大部分は交雑できないんですから」と述べ、不安を表明する。
著者は、『コーラン』を豊富に引用しつつ、「創造は事実である」と結論し、「心の存在」を証明し、「唯物論の終焉」を予言している。残された疑問は何か、といえば、それは、ハルン・ヤハヤの裏にはだれがいるのか、この高価な本を出版し、大量かつ無料に配布する資金を提供したのはだれか、という点である。しかも、同書は、全7巻のうちの第1巻にすぎないのだ。ついでに、もうひとつ疑問がある。同書が入っている小包にはちゃんと宛名が書いてあるのだが、同書の出版社はどうやって宛名を知ったのだろうか(マルク・メネシエ)。

帰国後『ル・モンド』国際版をみて、2月9日付け同紙にも『創造のアトラス』関連記事が出ていたことを知った。カフェオレを口から噴きだすだけではすまない、のかもしれない。