『世界の食文化・アラブ』

大塚和夫編『世界の食文化・アラブ』(農文協、2007)
いただきもの(黒木さん、サンクス)

(1)アラブ世界の食文化を、現地滞在の長い研究者たちが紹介し、その社会的、経済的、政治的、あるいは歴史的な背景を論じる。おお、クスクスが、タブレが、ひよこ豆コロッケ(ターメイヤ、ファラフェル)が……と、夜の仙台で一人涎をたらしながら読んだのであった。

(2)さて、トルコからアラブ世界にかけてひろくみられる料理に焼肉がある。羊などの薄切り肉を味付けしてから金属棒に何枚も巻き、この肉柱をぐるぐる回しながらグリルする。外側から焼けてゆくので、焼けた部分を削ぎとり、サラダなどとともに食べるわけである……が、ここで話はフランスにうつる。フランスでは、北アフリカなどに植民地を持っていたこともあり、アラブ料理レストランが多い。店頭では、たいていこの焼肉グリルが回っている。サンドイッチの国フランスでは、この焼肉を生野菜とともにパンにはさんだサンドイッチが好まれているが、ここで問題にしたいのはその名称である。
ぼくがはじめてしごとでフランスを訪問した1989年、このサンドイッチは「ギリシャ風サンドイッチ」と呼ばれていた。そして、焼肉の中身は羊が多かった。
1991年、1年ほど滞在したときに通ったパリはランビュトーのレストランでは、このサンドイッチは「シャワルマ・サンドイッチ」と呼ばれていたが、この「シャワルマ」はどうも北アフリカにおける「焼肉」の呼称らしかった。ちなみに、この店ではシャワルマに七面鳥を使っており、香りが上品なことを自慢していた。
そして、この2月に久しぶりにフランスに行ったとき、滞在したいくつかの地方都市では、このサンドイッチはたいてい「ケバブ・サンドイッチ」と呼ばれていた。「ケバブ」あるいは「カバブ」とは、この本によると、トルコから東地中海世界における「焼肉」の呼称らしい。
個人的な経験を一般化するのは気がひけるが、かくして、《フランスにおけるアラブ風サンドイッチのイメージは「ギリシャ伝来」から「北アフリカ伝来」へ、そして「トルコ・東地中海世界伝来」へと変化してきた》という結論が暫定的に導かれる。そして、さらに推測を続ければ、ここから《このことは、フランスにおいて「アラブ世界」のイメージを代表する地域は、ギリシャ北アフリカ…トルコ・東地中海世界とうつりかわってきたことを反映している》という無謀な仮説が構築できる。さて、この仮説を検証する手段を構想しなければなるまい……が、しかし、まずその前に中野にあるアラブ料理レストラン「カルタゴ」でクスクスを食べなければなるまい……が、しかし、そんな時間と金はない……と、妄想は膨らむばかりである。