『レット・イット・ビー』

若桑みどり『レット・イット・ビー』(主婦の友社、1988)

(1)『イメージを読む』と『絵画を読む』から多くの示唆を受け、どうにかして自分のしごととリンクさせたいと考えたことを思い出す。講演会に2回参加し、圧倒的な知性と感性をシャワーのように浴びることの悦楽を感じたことを思い出す。当然ながら面識はなかったが、一ファンとして、フェァウェル、若桑さん。

(2)なぜか地元紙『河北新報』のコラムで若桑さんのエッセー集が紹介されていたので、どうにかアマゾンのマーケットプレイスで入手して一読。

父はあるとき私に言った。「みどり、人間の顔で、大切なことはきれいさじゃないんだよ。」「じゃあ、なんなの?」と私は言った。「ある顔になることだよ」「ある顔って?」と私は尋ねた。「この世界で、たった一つの顔さ。ほかに一つもないかけがえのない顔のことだよ」。小学生の私には、父の言葉がよくわからなかった。しかし、今もはっきりと覚えているのは、この言葉を心に刻みつけたせいだろう。
ところがあるとき、それは、中学の二年生のときだったが、私は玉川学園で、名誉のある「全人賞」という賞状をもらった。私が、美術と文学にすぐれていることを誉めた賞状である。画家になることを心に決めていた私は、喜びに顔を輝かせて、礼拝堂の階段を降りてきた、。それを見ていた父は、夕食のとき、「今日お前はある顔だった」と言った。そのとき私は、言葉でなく、父の言いたいことを理解した。顔は形でなく、心のしるしだと。私が、希望に満ち、喜びと誇らしさで夢中になっているとき、たれひとり私を醜いとは思わなかったのだ。私は、私の顔を、私の心の二つとはないしるしだとわかった(31-2頁)

という下りに、頭を垂れる。