『近世イギリス家族史』

米山秀『近世イギリス家族史』(ミネルヴァ書房、2008)

■近世イギリスにおける家族構造の変容を、研究史のサーベイと、サウサンプトンを対象とするケース・スタディという2つの側面から分析する書。それにしても教授会があると(以下自粛)。
■本書第8章では、先行研究に対する批判的再評価の模範的な手続きを目にすることができる。

スネール説は……世帯の構成員は全員等しく家事と生産に参加するとされ、この点においては、男女の別、奉公人と家族の別はなかったとするのであった。そこで当然、奉公人に類型などは存在せず、名称は徒弟であっても、産業革命期までは他の奉公人と基本的に同一の活動をしたというのであった。
本章の結論は、これと正反対である……。奉公人の数は全体として減少するだけでなく、奉公人の構成も変化し、狭義の奉公人であるサーヴァントが大幅に減少する一方で徒弟や女中は減少しなかった……。
スネールが用いている史料は、『サウサンプトン市徒弟登録簿摘録』という史料集である。本章の第3節は、主としてこの資料集の元になったサウサンプトン市立文書館所蔵の徒弟史料に基づくものである。それに基づいて、サウサンプトン市の徒弟は、スネールの前提とは異なり、そのすべてがこの『摘録』に含まれるわけではないこと、その一方で『摘録』には徒弟ではないサーヴァントが含まれていることが明らかになるはずである。その論証はかなり錯綜しているが、それは本来サウサンプトン市がそうした錯綜した手続きによって、いわば擬制的な徒弟制を作り出し、孤児などを合法的に営業世帯の一員にする政策をとっていたことが一因である(167-8頁)

史料とは、こわいものだ。