フランス滞在7日目

2月7日(土)
今日も朝から雪がふるかと思えば快晴となり、快晴が続くかと思えば一天にわかにかきくもって雨となり、強い風が吹きはじめて雪となる……という週末。久しぶりに『ル・モンド』を買って読む。最近は、最新記事はオンラインで読めるので、紙媒体版はすっかりご無沙汰していたのでが、やっぱり目に優しくて良いなあ、紙媒体。ちなみに土曜日の『ルモンド』は別冊『ル・モンド2』が付いて2.5ユーロてある。
さて、この『ル・モンド2』2月7日号に、興味深い記事をみつけた。題して「免許も面倒も不要の小型自動車」。記事の翻訳は面倒くさいので、その概略だけを紹介したい。

フランスでは、一定の基準(最高速度が時速45キロ以下、エンジンは排気量50cc以下で出力約6馬力以下、2人乗り)を満たす自動車「小型自動車」は、原付と同等とみなされ、16歳以上であれば原則として運転免許なしで乗れる。そして、興味深いのは、この「小型自動車」の販売台数はここ数年(年率で)10%以上の伸びを示しており、とりわけ農村部で売れている、ということだ。これは、過疎化が進んでいるせいで、ご近所の商店がシャッターを下ろし、それなのに公共交通機関が撤退をはじめている地域で、いわゆる「生活の足」として、老年層が「小型自動車」を購入していることを意味している。彼らにとっては、早く走れたり、大人数が乗れたり、加速にすぐれたりする自動車は、とくに必要ない。買い物や医者通いや親戚宅訪問に使え、雨でもぬれず、体力が要らず、しかも運転免許などという取得に手間がかかる代物を必要としない交通手段であれば、それで十分なのである。
ブルターニュ地方はコート・ダルモール県ラニオン市には、「ラニオン・サン・ペルミ社」という小さな「小型自動車」メーカーがある。「小型自動車」メーカーはいくつもあるが、同社は、このような過疎化農村部の老年層を主要顧客として想定し、老年層があつまる週市に試乗車をもちこみ、口コミで顧客をふやす、というユニークな販売活動を展開している。

この記事を読んでいるとき、ぼくの脳裏に浮かんだのは、宮城県北部の某町(正確には、先日の市町村合併ブームにより、某市の一部となっている)の光景だった。
今年度、ぼくは、勤務先からちょっと資金を得て、宮城県内の公立商業高校をまわって先生方にインタビューするというプロジェクトを、プロジェクト・フェローの佐藤静香さん(日韓比較労使関係論)たちと進めている。フランス社会経済史学が専門で、しかも専門にかかわるしごとがろくに進んでいないというのに、なにを酔狂な……という気が自分でもするが、ま、始めたものはしかたがない。ちなみに、インタビューのテーマ・内容・目的は企業秘密である(誇張あり)。
で、去年の末、ぼくと佐藤さんは、その一環として某商業高校を訪問するべく、その町の駅におりたった。列車ダイヤの関係で先方との約束の時間よりもかなり早く着いてしまったので、どこかで事前の最終打合せでもするか、と思って駅前通りを歩きだしたのだが、これがまた見事なほどの「シャッター通り」で、なんにもない。ただし、一番ぼくの印象に残ったのは、そのことではない。駅前にあるスーパーマーケット「A-COOP」(農協経営のスーパー)の前にずらりと並んだタクシーの列だった。
これは

  • ご近所の商店が閉まってゆくため、ここで買い物をするしかない。
  • 来るときは、多分、公共交通機関、具体的には地元市町村が運営する、いわゆる「コミュニティ・バス」で来るんだろう。
  • しかし、帰りは、荷物も重いし、公共交通機関は本数が少なくて待ち時間が長い。
  • 仕方なく、タクシーで帰ることになる。

という行動パターンの存在を推測させる。こんな行動パターンをとるのは、おもに運転免許を持たない老年層だろう……なんてことを話しているうちに冷たい雨までふりだしたので、ぼくらはあわててタクシーをひろい、目的地に向かった。当然ながら相当早く着いてしまったので、先方の先生方にはたいへん迷惑をかけてしまった。
それにしても、過疎化しつつある農村部では「交通弱者」がふえているが、どうすればよいのか……あの光景をみてそんなことをぼんやり考えたのを思いだした、土曜日の午後のレンヌである。
追記すると、この記事は「過疎化という社会問題は、ビジネスチャンスにもなりうる」ということも教えてくれる。社会問題とビジネスチャンスは、考えようによっては表裏一体なのだ。