ディジョン滞在4日目

1月28日(木)
朝起きたら外は真っ白……というのは大げさだが、うっすらと雪化粧したディジョンの中心街。ADCOにむかう道々、転んでPCをこわしたら悲しいのでペンギン歩きしているアジア人を、人々はどう思っただろうか。ADCOに着いたら、開館時間に来ていたのはぼくと、もうひとり、どーみても「フランス人博士候補生」にしかみえない「カナダ人大学教授」だけ。閲覧室の係員さんと「閲覧者が日本人とカナダ人だけとは、ここはどこの国だ?」と冗談を飛ばしあう彼は、ニューブランズウィック州の大学で歴史を教えている36才。一年間のサバティカルを得てディジョンに来て、18世紀の人口移動を研究しているという。いーなあ、うらやましーなあ。こんちくしょーめ、こちとらたったの5週間だいっ。
ちなみに彼は、ドナルド・サザランドのもと、メリーランド大学Ph.Dをとったらしい。サザランドといえば、仏訳もされている大著『ふくろう党』(Donald Sutherland, The Chouans, London : Clarendon Pr., 1982)で知られる、フランス革命期西部反革命運動史研究の大家だが、彼によると現在はソーヌ・エ・ロワール県(ブルゴーニュ地方)の研究を手がけてるんだとか。うーむ、このフットワークの軽さはなんだろうか?


閲覧室前のカウンターに資料請求に行ったら、係員さんたちがなにかを隠すそぶり。ん、と思ったら「チョコ食べる? 寒いから血糖値を上げないとね。館長にみつかったらヤバイけど」だと。じつにサンパで心和む雪の一日。


とにかく寒いので、ディジョン到着以来、夜は(暖かい)宿にこもって『ル・モンド』と本を読んでいる。ディジョンには、Forum Privat、Gibert Joseph、FNAC、そしておそらく地元資本であるLibrairie de Grangier(ただし、ここが一番本がそろっている)と、4軒の大型書店がある。これらをまわってめぼしい本を買い、面白そうなのを斜め読みし、いずれ小包で日本に送ることになる……重いので。そんなわけで、しばらくは書店めぐりが日課になるだろう。

  • 今回まず目に付いたのはジェラール・ノワリエルの新刊『イタリア人虐殺』(Gerard Noiriel, Le massacre des Italiens, Paris : Fayard, 2010)。1889年に南仏エーグ・モルトで発生した、地元民たちによるイタリア人出稼ぎ労働者虐殺事件を題材に、「ナショナルアイデンティティの確立は『他者の創造/排除』を必然的に伴う」というノワリエル年来の主張が論じられる快著。
  • もうひとつ、2月半ばにレンヌで著者ルノー・モリユ(リール第3大学准教授)を迎えて開催される書評会の課題図書『二つの王国、一つの海』(Renaud Morieux, Une mer pour deux royaumes, Rennes : PUR, 2008)も、17-18世紀に英仏海峡ドーバー海峡)が「国境」として確立する過程を、「国際政治」と「地元民衆の生活」 の両面からたどる好著だった。ぼくもはるばるディジョンくんだりから書評会に参加するつもりで、わざわざ日本からこの本をもってきたが、その甲斐があったというものだ。
  • そのほか、気球と啓蒙思想の関係(!!)を論じる本とか、「モラル・エコノミー」という題名なのにE.P.トムソンの名前が出てこないアヤシイ本とか、友人ヤン・ラガデクの新著とか、4日間で8冊ほど購入。しかしそのほとんどがレンヌ大学出版会(PUR)の本というのは、こはいかに?