ディジョン滞在5日目

1月29日(金)
昨日午後ADCOで例によってドタバタと撮影をしていたら、件のカナダ人大学教授がやってきて「疲れたからお茶しようぜ」……というわけで、近くのカフェで話を聞く。彼は、ヨーク大学(トロント)でティモシー・ルゴフのもとで修士号をとり、ドナルド・サザランドがいるメリーランド大学の博士課程にすすんだという。ルゴフといえば、18世紀フランス西部はモルビアン県に関する大著(T-J-A. Le Goff, Vannes and its Region, Oxford : Clarendon Press, 1981)で知られる大家。サザランドといい、ルゴフといい、フランス西部史のオーソドックスである。「本来なら(ぼくのように)レンヌに来てもよかったのに、なぜ?」と聞いたら、ピエール・ド・サンジャコブの有名な本を読み、「ここなら資料がある!!」と確信したんだとか。


サンジャコブは、1960年、ディジョン大学近世史担当教授就任を目前に急逝した農村史家であり、その博士論文『18世紀北ブルゴーニュ地方の農民』(Pierre de Saint-Jacob, Les paysans de la Bourgogne du nord au dernier siecle de l'Ancien Regime, Paris : Les Belles Lettres, 1960)は、1995年に再刊されるほどの、質量ともに文字通り大著である。
しかし、彼にインパクトを与えたのは、この本ではなく、サンジャコブの博士論文の「付録」(Id., Documents relatifs a la communaute villageoise en Bourgogne du milieu de XVIIe siecle a la Revolution, Paris : Les Belles Lettres, 1962)だった。ぼくは未見だが、これは旧体制期ブルゴーニュ地方農村部に関する主要な資料を収集・分類したうえで解説を付した一種の資料集で、アーカイヴァル・ワークをするためにフランスに来るのが大変だった時代の英米圏では「must」だったらしい。うーむ、こういう地道な仕事が後世の若き研究者の進路に大きな影響を与えることもあるのか、と、深く感得した午後。


ちなみに、この、どーみても「フランス人博士候補生」にしかみえない「カナダ人大学教授(正確には准教授)」とは、ジェレミー・ヘイホー。36才にしてすでに単著(Jeremy Hayhoe, Enlightened Feudarism, Rochester : U Rochester Press, 2008)をもつ俊英なのだった。早速アマゾン・フランスに注文して、あとでサインをもらうことにしよう……なんて、なんてミーハーなワタクシ。