高校世界史B教科書『新世界史』

日々のドタバタにまぎれてすっかり忘れていたが、執筆に参加した山川出版社の高校世界史B教科書『新世界史』……「新世界・史(History of New World)」じゃなくて「新・世界史(World History new version)」と読んでほしい……が3月末に検定合格となり、現在絶賛(誇張あり)営業中らしい。
来年4月から販売&使用開始予定の同書は、岸本美緒(東アジア、東南アジア)+羽田正(西アジア、南アジア、アフリカ)+久保文明(アメリカ、オセアニア)+南川高志(欧州古代)という豪華ラインナップ、千葉敏之(欧州中世)+勝田俊輔(欧州近世)という新進気鋭、そしてぼく(欧州近代)というオマケからなる執筆者一同が、あふれんばかりの気合を入れ(すぎ)て作成した、超ハイレベルの一冊である……が、こりゃ一体だれが使うというのだろうか。
そんな一抹の不安をかかえつつも、なんと「かのベストセラーたる山川出版社『詳説世界史』の一・五倍とは! マジですか?」という圧倒的な分量と、あのぉ「持ってると手が震えてくるぞ、おい」というアキレタ重さを誇るこの教科書は、どうころんでも教科書「を」教える授業ではとうてい終わりそうもないゆえ、これを奇禍として、教科書「で」教える授業にチャレンジするには良い機会となるかもしれない(たぶん)。
そんな恐るべき『新世界史』の営業用パンフレットに一文を寄稿したので、ご覧に供したい。


日本最高水準の高校世界史B教科書を


縁あって、はじめて高校教科書を執筆することになりました。ぼくが担当することになったのは近代の欧米に関する二つの章だけですが、最初の打合せの際、編者や編集者の皆さんが強調していたのは「日本最高水準の高校世界史B教科書をつくりたい」ということでした。こんな条件を耳にして、はりきらない執筆者はいないでしょう。


もちろん学習指導要領に従うべきであるとか高校教科書であるとかいった制約条件はありましたが、現在の歴史学界の動向を反映した、内容の水準についてはなるべく妥協しないものを作るという点では、執筆者の意向は一致していたように思います。


ぼくも、執筆期間中に東日本大震災に直撃されるというピンチをどうにかのりこえ、自分が書きたかったことはほとんどすべて書けたという気がしています。そして、先日、本のかたちになった最終原稿を目にしたとき、たしかにこれは日本最高水準の教科書であると確信することができました。


それでは教科書の「水準」の基準はどこに置かれるべきでしょうか。色々な意見があるかもしれませんが、ぼくにとっては、それは「なるべく多くの(いわゆる)歴史用語をもりこむこと」ではなく「現時点における学界の通説に則ったストーリーを論理的に構築すること」です。したがって、ぼくの担当部分については、あまり多くの歴史用語を登場させずに執筆することを心がけました。


それでも、ぜひ高校生諸君にわかってほしいこと、したがって、文章にもりこみたいことは多いものです。他の執筆者の皆さんの気持ちも同じだったのか、結果として本書は標準的な教科書の一・五倍もの分量となりました。


この分量ですから、本書を使って「教科書を教える」授業をすることは難しいでしょう。ぼくが期待しているのは、むしろ、本書が、高校生諸君がみずから世界史を学ぶようになるきっかけとなることです。本書は「教科書で教える」授業を試みる高校の先生方のためのものだといえるかもしれません。


書きたかったことはすべて書けたといいましたが、教科書の執筆という課題について、やり残したことがないわけではありません。たとえば、本書を手に取った高校生諸君が「世界史って面白い」と思ってくれなければ、本書をもちいて「教科書で教える」授業をすることは難しいでしょう。それでは、ぼくの担当部分は世界史の面白さを伝え、読者である高校生諸君のセンス・オヴ・ワンダーを喚起するものになっているでしょうか……これは、ぼくが判断するべきものではありませんが、まだまだすべきことは残っているように思います。その点も含めて、本書に対して意見を寄せてくださると嬉しいです。