Let's go straight on, Baby.

この前の連休のことになるが、中野隆生さん(学習院大学)が主催する都市史研究の国際シンポジウムが恵比寿は日仏会館であり、ちょいと遠征してきた。松本裕さん(大阪産業大学)に、ひさびさに再会するためである。
建築史・都市史の専門家である松本さんとは、15年ほど前、リサーチのために滞在していたパリで何度か食事を共にした仲ということになるだろうか。当時ぼくは、パリでは、高井哲彦さん(北海道大学)の手を煩わせ、シテ・ユニヴェルシテール(国際大学生寮地区)にある各国の学生寮のどこかに短期滞在するのが常だった。そして、夕食は、地区内にあるスペイン館の地下に位置する食堂でとることが多かった。ちなみにこの食堂、当時は美味だったが、味が大暴落したという噂を最近耳にして愕然としているところである……が、とにかく、そこで松本さんに出会ったというわけである。そのころ松本さんは、泣く子も黙ってパスポートと財布を隠すサンドニ街(rue Saint-Denis)を対象に、語の真の意味で「命がけの」リサーチをしていた。建築史・都市史を専門とするからには、カメラかかえて建物の写真を撮ってまわらなければならないが、当時のサンドニ街は売春地帯であり、つまり下手するとその筋の兄さんに「なに撮っとんじゃ、われ」と迫られる危険があったわけである。これでは「いとすさまじき」リサーチプログラムとしか表現しようがないではないか。
そんな懐かしの松本さんと久々に会い、昼から日仏会館付属のレストランでワインを(松本さんは午後からトークがあるので、ぼくだけ)飲みつつ延々と話しこんだり、シンポジウムでは、イギリス都市史を専門とする本内直樹さん(中部大学)のトークが抜群に面白く、思わず専門外なのにマジメな質問をしてしまったりと、じつに幸福な週末の一日をすごしたわけである。


さて、本題はここから。
そんな好天の一日が終わり、中野さんたちと日仏会館をあとにする際のこと。中野さんの弟子と思しき学生さんに「本、読みました」と声をかけられた。拙著を読んでくださっていたらしい。それも『歴史学ってなんだ?』だけじゃなくて『歴史学アポリア』まで!! そして、大略「歴史学にあっても現実に対する問題関心が大切だという話、面白かったです。今日の(本内さんのトークに対する)質問も、そういう観点なんですよね?」という質問が続く。それも尊敬(当社比)のまなざし付きで、である。
ここで、ぼくの悪い癖が出た。尊敬されたりほめられたりするとヘンに照れ、軽口をたたきたくなるのである。普段あまりほめられない人生を送っているので、耐性がないのだろうか? 結果、おもわず「いやぁあれは自分の次のリサーチの関係で質問しただけで……まあ現実に対する問題関心っていうよりは、自分のためって感じかな」とか何とか、くだらんことを口走ってしまうのであった。
じつに良くない。われながら、良くない。
これが中野さんみたいな酸いも甘いも噛分けた御大からの質問だったら「エヘヘ、ヒ・ミ・ツ」とかいってニタッと笑ってオッケーなのだが、次代を担う若者からのストレートな問いに対しては、ストレートに応えなければならない。
Let's go srtaight on, Baby.
そう、あの質問の背後には、たしかに現実に対する問題関心があったのでした。いまごろ、こんなところで、すみません。もしもまたお会いする機会があったら、ぜひその話をさせてください。