滞仏4日目(火):人生を楽しむということ

モンペリエはすっかり春で、最高気温が17度とか19度とかいう、仙台から来ると「天国か?」と思わせるような日々が続いている。そんなわけで、眠くて困る。おまけに今回はホテルが南向き・ベランダ付きの部屋を用意してくれたため、ホテルライフが快適で、ただでさえ出不精=デブ性なのに、困るなぁこれ。
さて、ここのところ、モンペリエ市文書館でリサーチをすることが増えた。一般に市文書館は規模も小さく利用者も少ないため、職員さんたちと仲良くなりやすい。ここモンペリエもその例に漏れず、ぼくも色々と面倒をみてもらっているのだが、その一人の話をしてみたい。
ドネスさん(仮名)は40代と思しきマダムだが、とにかくいつも笑顔で親切でサンパである。しかも、その「親切でサンパ」さが、なんというか、きわめてフランス的なノリなのだ。たとえば、

  • 10時になると「コーヒー飲まない?」と声をかけてくれる。【<==ふつう閲覧室では飲食禁止】
  • あるときは「マドレーヌ焼いてきたから、みんなで食べよう」。【<==同上】
  • 今日は、帰り支度をしていると「この前テレビで中国のルポルタージュをやってたけど、あれホント?」と声をかけてきて、こちらもヒマなので、日本と中国とフランスとアメリカ合衆国社会保障制度について(他の利用者の邪魔にならないように小声で)延々と議論を戦わせてしまった。【<==ふつう閲覧室では私語は避けるべきものとされている】

などなど。
ちなみに中学生と高校生のお子さんがいて、水曜日は「子供の相手をしたいから」といってお休み。つまり週休3日の勤務形態である(たぶん、その分給料はカットされていると思う)。
フランスはちょうど春休みだが、ドネス家は「来週は家族でアヴェロンに旅行、復活祭の休みにはコルシカに行く」んだそうだ。ぼくが「ぼくも年間40日の有給休暇があるけど、ほとんど使わないなあ」というと、「それで人生楽しいの? ひとは働くために生きるんじゃなくて、生きるために働くんでしょ」と言いかえされてしまった。
そんなこんなでじつにフランス的なキャラのドネスさんだが、なぜこれほどまでに家族とバカンスを大切にしているのか、いまいち腑に落ちないところがあった。話をしているととても知的で好奇心も強く、なんというか「仕事に興味がもてないというタイプではない」という印象を与えるからだ。バリバリのワーキングウーマンになってもおかしくない、という感じ。
今日になって、そんな疑問が解消された。社会保障制度の話をしていたら、ドネスさんいわく「わたしはフランス人でよかった。数年前に大病したんだけど、医療費は社会保障制度でカバーしてもらえたから」。
そうか。
ドネスさんは、病を経験してから、自分の人生で大切なものはなにかを考え、そのうえで「家族」を選択した。モンペリエ市職員の勤務先としてはヒマな市文書館に異動し、週4日の短縮勤務という形態を申請した。キャリアはあきらめ、家族と時間を共有することを優先したのである。
「好きな人々と時間を共にし、人生を楽しむことが、わたしにとっては大切」と言いきるドネスさん。これもまた、ひとつの見事な選択である。
人生を楽しむとは、いかなることなのだろうか。