ICHSその3

【追記】
その後、吉嶺茂樹さんからヤン・ピャオのトークについてメールがあり、帝国書院の副教材には日露戦争について、それらしくとられうる記述があるとのこと。こら帝国書院、歴史・記憶・メディアに関する世界中のトップランナー(ユルゲン・コッカの奥方も来ていた)が集まる場所だというのに……わしゃ知らんぞ。
【本文】
①今朝も朝食をとりに展望レストラン(49階!!)に出かけたら、ヨーロッパ系の女性ホテルパーソンがいる。「アメリカですか?」と質問したら「フランスです」と返されたので、フランス語に切替えて「どこ?」と聞いたら「ニーム出身」。ニームといえば、ぼくが調べているモンペリエの近隣にある静かな町(いちおう県庁所在地)である。「中国、どう?」と聞いたら、彼女曰く「別世界。上海や北京なら別だけど、ここ済南は地方都市だからなあ」だと。あと2週間で転勤ということで、グッドラック!! ぼくは、今日も朝からパンとラーメンと炒飯とその他諸々を詰込み、中国語(わかんないけど)と英語とフランス語の嵐に備えるのであった。
午前のセッションが始まるのは9時だが、折角だからエクセサイズを兼ねて途中にある泉城公園を散歩しながら行くかと思って7時すぎにホテルを出たら公園は閉門中で、7:50に山東ホテルに着いてしまった。同ホテル宿泊の多数参加者諸氏をおさえ、堂々の一番乗りである……が、会場を準備するボランティアさんたちにとっては「メイワク」以外のなにものでもなかっただろう。
午前のセッションが終わり、午後のセッションまでちょっと時間(本来は昼食の時間だが、ぼくは朝食を食べすぎているので昼食ぬき)があるので、会場で大学行政関係のしごとをするつもりでパソコンを開いたら、日本語で「すみません」という声がする。声の主をみると、山東ホテルの制服を着た女性だった。「日本語しゃべれるんですか!!」と答えると、「母が日本で大学教員をやっているので、ちょっと勉強して……」というではないか。「ご母堂のご専門は?」と聞くと「よくわからないけど、医学部です」だと!! 中国から日本の某大学の医学部に留学し、そのまま助手に採用され、最近常勤講師に昇進したとのこと。二人で同大学のホームページを検索したら、たしかに研究室メンバーとともに笑顔で写真に写っている。外国籍の女性が語学教員以外で日本の大学に常勤ポストを得るのは、並大抵の苦労ではないはずだ。彼女も「母はハードワーカーなんです」といっていたが、その努力には敬服の一言である。


②さて、肝心の国際歴史学会であるが、今回が第22回。5年に一度なので、一世紀以上の歴史を誇るわけだが、じつは、アジアで開催されるのは今回が初めて。初のアジア開催地が中国というのは、国力の差であらうか。ちなみに、ぼくは「なんで上海や北京じゃなくて、済南なる地方都市(といっても人口600万人!!)なんだろうか?」と思っていたのだが、火曜日に言葉を交わした鞍山の高校教員は「そりゃ孔子の地元だからじゃないかねえ」といっていた。孔子って偉いんだね、パトラッシュ。ぼくは知らなかったよ。


③午前:「記憶の戦争(メモリー・ウォーズ)」という、歴史教育に関するセッションに参加。各国の歴史教育が、戦争・内戦・紛争・対立・虐殺などの歴史に対していかにコミットしてきたか/コミットするべきかを考えるという、じつにアクチュアルなテーマで、オーディエンス多数。

  • 7本の報告(イスラエルブルンジルワンダクロアチア、ロシア、南アフリカ、日中、各地の戦争博物館)はどれもインフォマティヴで、昨日の2つのセッションがともにひどかったゆえ、ようやく「来てよかった」と思った。とりあえず打率10割……とまでは言わないが、全体として合格点である。
  • ブルンジルワンダを比較したドニゼ・ベントロヴァトのトークは、比較の対象の選択が的確で、じつに興味深かった。
  • 日中の中等教育歴史教科書を比較したヤン・ピャオは、東大で客員研究員の経験があるということだから日本の事情に詳しいはずだが、大略「日本の歴史教科書では、日露戦争は肯定的に描かれている」と語り、ぼくは頭をかかえてしまった。日露戦争を肯定的に描くって、あのなぁ司馬遼太郎じゃあるまいし……そんな教科書は存在しないはずだけど、……いや、まてよ、これって育鵬社とか扶桑社とかのことか……でも、そんな最近の動向までフォローしてるのかねえ……ウーム、という感じ。
  • ちなみにフロアからは、アントン・デ・ベイツが「天安門事件の博物館はないのか?」と発言して周囲をハラハラさせ、イム・ジヒョンは最後に「比較なんてダメで、グローバル・ターンだよ」とちゃぶ台返しを食らわせ、盛上るセッションを締めくくったのであった。


④午後:一応「フランス史研究者」を名乗っている以上、当然の義務教育として「フランス革命史研究の新方向:200周年から四半世紀」セッションに参加。7本のトークのうち、ひとりが欠席、もうひとり(ピーター・マクフィー)が欠席でペーパー代読という、形式的にはちょっとさびしいセッションとなった。

  • サイモン・バロウズトークは、旧体制期の刊行物データベースの構築・分析プロジェクトについての中間報告。これは、すごい。
  • エイミー・ミルカのトークは、同時代イギリスにおけるフランス革命関連言説を実態と比較するという(文学でよく利用されるらしい)アプローチを実践したもので、ふむふむ。
  • 大家ティモシー・タケットのトークは、社会心理学認知科学を援用して「感情」に接近するという調査プログラムを提示するもの。御年70にして、この好奇心!!
  • 本人によるトーク5本のうち3本がグッドだったので、打率6割。これはすばらしい。


⑤今日は、ホントに色々と勉強になった。

  • 隣接する学問領域の動向に目を配って適切なアプローチを考案or選択する。
  • デジタル革命の成果を利用して資料のカバレッジを上げる。
  • 適切な対象(ブルンジルワンダの比較とか)に着目する。

といった営為を実施すれば、まだまだなすべき/なしうることは山積しているのである。