日本西洋史学会報告②

  • 第2試合

野口理恵「女子修道会による保育施設の運営と世俗化―19世紀パリにおける福祉と教育の狭間―」
フランス革命期から20世紀はじめ(1905政教分離法)までのフランスが、カトリック教会支持派と、脱宗教化支持派(世俗派、共和派とニアリーイコール)のあいだで激烈な文化ヘゲモニー闘争が展開された時空間であることは、谷川稔さんをはじめとする先達の研究のおかげで、日本でもよく知られるようになった。そして、ヘゲモニー闘争の主戦場となったのが教育の領域であり、同領域でカトリック教会支持派の主要アクターとなったのが各地で学校を運営した修道会である。
野口さんは、そのことを確認したうえで、それでは「福祉の領域では闘争はあったのか、あったとしたらいかなる形態をとり、いかなる過程を辿ったのか」という問題を設定する。そして、具体的な分析対象として、教育と福祉が入り乱れている乳幼児教育施策、具体的には幼稚園(salle d'asile)と保育所(creche)を採用し、修道会立の幼稚園・保育所にかかわる政策や実態を、19世紀とりわけ第三共和政前期について明らかにする。用いられる資料は、おもに同時代刊行資料および定期刊行物である。
福祉と保育がオーバーラップする領域における脱宗教化の形態・過程・程度に着目し、その観点から幼稚園・保育所を分析するというのは、なかなかステキであり、また、きわめて重要な研究計画であるといってよい。
た・だ・し。
野口さんの報告は「福祉」あるいは「教育」という最重要な概念がなにを意味するのか、あるいは当時なにを意味していたのかが、結局わからないままに終わってしまう。幼稚園は「教育」施設であり、保育所は「福祉」施設であるといわれ、また実際日本でもそのような区分が長らくされてきたことは事実であるが、それでも「福祉や教育とは何か/何を意味していたか」を明らかにしたうえで議論を進めないと、論点がぼやけてしまうのは、これは避けられないところだろう。
まずは、そこからではないのか(上から目線……トシだな、トシ)。