日本西洋史学会報告⑤

  • 第5試合

谷口良生「フランス第三共和政前期(1870-1914年)における地方議会と議員の経歴―ブーシュ=デュ=ローヌ県議会を中心に―」
そろそろ記憶が(いろいろな意味で)怪しくなってきたが、たしか上記タイトルとは異なり、第三共和政前期(第一次世界大戦までの時期を「前期」と称するのが慣例)におけるブシュ・デュ・ローヌ県(県都マルセイユ)において、県議会が中央政府に発する「請願(voeu)」の性格が行政的なものから政治的なものに変化してゆくことを見出し、その背景を探るものだったと思う。利用される資料は、おもに県議会議事録、そして中央文書館・同県文書館・マルセイユ市文書館に所蔵されている一次資料である。
「政治」と「行政」を峻別し、そのうえで県議会という「組織」に即して両者の関係を探るという谷口さんの研究計画は重要であり、興味深い。
し・か・し。
肝心寛容の「政治」と「行政」の定義が、最後まで出てこない。谷口さんは、今日的な観点から「政治」と「行政」を定義して分析概念として利用することを批判し、当時の人びとが抱いた「政治」と「行政」のイメージに即して分析を進めることが重要であると説く。それはその通りであり、それによってみえてくることが多々あるという意味で生産的なスタンスである。しかし、そのうえで、当時の人びとが抱いたイメージを今日の用語に翻案して提示しなければ、「政治とは政治であり、行政とは行政である」という循環論法に陥ってしまう。この点は山崎耕一さんが質問していて「さすが」と思ったが、もう一歩の踏み込みが必要であり、というよりは不可欠だろう。