アーカイヴァル・ワークとはなにか。

5か月ぶりのエロー県文書館の作業初日は、とにかく「腰が痛い」の一言。パリも寒いがモンペリエも寒く、おまけに今日は珍しく本格的な雨が続くということで、アーカイヴァル・ワークをしていれば腰が痛むのはすぐそこ、腰痛にはうってつけの一日となった。

さて、今日から、5か月ぶりにエロー県文書館で「アーカイヴァル・ワーク」を再開した。しかして、数少ない読者諸賢は「アーカイヴァル・ワーク」と言われても、実際になにをしているのか、なぜそれが腰痛につながるのか、よくわからないに違いない。

アーカイヴァル・ワークとは、要するに、文書館(アーカイヴ)に出かけ、保存してある一次資料をチェックする、という作業のことである。フランスの地方(県、市町村)レベルの文書館の場合、大体の資料については目録(英語でインベントリー、フランス語でアンバンテール)が出来ており、まずはそれをチェックし、面白そうな資料を請求することになる。資料には請求番号がついており、それにもとづいて請求するわけだ。

ちなみに請求単位(すなわち請求番号の単位)は、通称「箱」(英語でカートン、フランス語でカルトンまたはボワト)。ただし、箱のなかに具体的にどんな資料が入っているかは、フランスの地方文書館レベルでは、普通はわからない。フランス中央文書館(Archives Nationales)だと、目録に中身が大体書いてあるのだが、地方文書館だと、基本は出たとこ勝負。関係ありそうな箱の請求番号をチェックしてリストを作り、それを、順番に、ひたすら請求するのである。

箱は、大体、40センチ×30センチ×15センチぐらいの大きさで、そのなかにわけのわからん紙……じゃなくてタイトルに関連する資料がつっこまれている。この箱が、とにかく重い。ここで腰痛が効力を発揮する。

このむやみに重い箱を、えっさらほいさらと出納カウンターから自分の閲覧席に運び、開け、資料を取り出し、端からチェックしてゆく。面白そうな資料だったら、デジカメで撮影する。とにかく時間がないので、撮影した映像を本格的に解読するのは、日本に帰国してからのこと。一期一会だから「面白そうだったら、とにかく撮影する」のが鉄則。であり、これをひたすらに繰り返す。以上が、なんのことはない「アーカイヴァル・ワーク」の中核をなす作業である。

一日に請求できる箱の数は、文書館によって異なるが、大体、10-20箱となっている。職員さんは、請求された箱を保存庫(デポ)に取りにゆき、出納し、返却されたら再び保存庫に戻すわけだから、請求数に上限があるのは、これは当然のことだろう。

ちなみに、エロー県文書館では、請求数の上限は一日20箱。これは、他の県・市町村文書館と比して、かなり多いほうだと思う。ただし、ぼくは一日15箱でやめるようにしている。なるべく早く仕事をあがって、ノンビリとカフェのテラスでワインを飲みたいから……ではなく、請求を続けている箱である「エロー県公共低廉住宅公社理事会会議資料」が、物理的な意味で重く、職員さんの物理的な負担になっていることが明白だからだ。

どうみても4-5キロ近くある、パンパンに膨れ上がった箱を、痛む腰をかばいながら「いたたたた」と毒づきながら運んでいると、これを出納する職員さんも大変であることがわかってくる。こんな作業をマキシマムの20回ずつお願いしていたら、絶対に嫌われるだろう。人間関係がものをいう地方で、職員さんに嫌われないのは致命的に重要な条件である。15箱でやめるのは、職員さんとの関係を悪化させないための「大人のたしなみ」なのである。

「嫌われない」手段としては、もうひとつ、差入れという手がある。ぼくも、エロー県文書館のもう一つ下位に位置するモンペリエ市文書館でアーカイヴァル・ワークをするときは、毎週月曜日にチョコレートを差入れするようにしている。「今週もよろしく」というわけだ。もちろん「はるか極東から来ているので、出来れば特別扱いしてほしい」という意味が込められているのは、これは言うまでもあるまい。このへんの気配りもまた、アーカイヴァル・ワークの重要な一環をなしている。

今回は2週間の滞在だが、エロー県文書館は火曜日から金曜日までしか開いていないので、作業できるのは8日。8日×15箱で、請求できるのは実質120箱。チェックしたいのは115箱なので、計算上は完璧である。

さて、どうなることか。